三軒茶屋でのあゆみ


■三軒茶屋にお店を開けるまで

 

わたしは神戸の大学卒業後、大阪で情報誌/エンタメ関連を扱うベンチャー企業の中では古い有名企業で数年間を過ごしました。毎日の仕事が、街の楽しいことや、アーティストやスポーツなどの興行情報に関わることです。いつも、読者や購買者に少しでも新しい情報、面白い情報をお伝えしたいという気持ちでした。仕事仲間にも恵まれたおかげで本当に充実した社会人生活をスタートできました。上司も同期も後輩も今でも良い繋がりがあるほどです。

 

そこから「イベントを作る」仕事に興味が更に向き、自分でできるようになりたいと思ったので輸送を扱う旅行会社や航空会社、イベント制作会社で更に企画、手配、実施という仕事を経験し、2006年5月に東京、この三軒茶屋を本社としてイベント制作会社を設立いたしました。今年2018年で13期目を迎えています。わたしの会社は企業や官公庁のお仕事が100%で、広告代理店との繋がりで受注いただくカタチ、いわゆるBtoBの形態です。

 

ところが会社が10年近く経った時に、ふと、わたしは三軒茶屋で生活し、会社の拠点もここにあるにも関わらず近くに友達も知り合いも全くいないということに気がつきました。東京に来てからの友人は皆仕事を通じての関係で、三軒茶屋という土地には全く関係がなかったのです。恵比寿、表参道、築地といった場所にイベント制作関連会社が多いため、そういう土地にばかり馴染みが深くなっていました。もともと街の情報を扱う仕事をしていたのに、自分を振り返ると自分が住む街と切り離されていることに違和感を感じました。せっかく出会った土地に友達も顔見知りもいないのは寂しいことです。

 

そこで、何をすれば良いか考えました。

そうだ、自分のお店を開いて、地元の方に少しづつ馴染んでいけばいいのではないか。と考え、偶然自宅と駅のいつもの通り道である中里通り商店街に「空店舗」の文字を見つけ、すぐにその店舗を借りることにしたのです。でも借りた時は、実際に何をやるかははっきりと決まっておらず、「やりながら考えよう」という、店舗を開店される方とは真逆の発想でやってみることにしました。自分には何かに特化した特別な技術はありません。あるのは、企画力・手配力・実施力だけです。

■さて、何のお店にしようかな?

2013年の9月10月、普段の業務にあたりながら毎日少しづつ店づくりをしました。業者さんにお願いしたのは、配管周りと入り口の扉の施工だけです。塗り・取り付け系は全部自分でやりました。通りがかりの皆さんに「何のお店ですか?」と聞かれ、「うーん、何でしょうね」とわたしが答えるという始末です。内装デザインは以前留学していた南フランスのプロヴァンスやイタリアのトスカーナの小さなお店のようにしようと決めていて、黄色い壁と古い木のブラウン、古いモロッコランプなどをつけました。保健所対策の仕様にもしていたので、軽い飲食でも小売でも可能な状態でした。店名も、何をやるかは置いといて「Cafe de la Poste」にしようと決めていました。すぐ向かいの国道246号線を渡れば世田谷中央郵便局があるからです。

 

フランスの郵便局の近くには必ず広場があって、そこには「Cafe de la Poste」(郵便局カフェ)の名前を冠したカフェがあります。これは、チェーン店などの名称ということではなく、わかりやすく便宜上つけられた店名です。わたしが住んでいたエクスには、「BAR de P.T.T.」がありました。「郵便局バー」です。民営化して郵便局の名称がLa Posteに変わる以前は、P.T.T.(ペーテーテー)という名称だったからですが、郵便の歴史というのはフランスが世界を率いており、郵便の公用語はフランス語だったりと、フランスにとって郵便局というのは人が集まるアイコンのような存在なのです。

 

とりあえず、自身が2006年から続けていたフランス雑貨のネットショップ商品がたくさんあったので並べてみましたらそれなりにいい感じのお店が出来上がリ、2013年11月11日にオープンさせていただきました。あとで判明することなのですが、この店舗で昭和の時代に商売をされていた元東映の俳優さんのお誕生日が11月11日で、その俳優さんのお弟子さんにその事実を知らされ、その方々と偶然の共通点から、あたたかい交流をさせていただくことにもなりました。

■誰かの「ちょうどいい」を目指してのデザインアトリエ

少しづつ、少しづつ、この「謎のお店」に入ってくださるお客様が増えました。そして、色々なご要望をたくさんお聞きすることができて、その都度内部のレイアウトや扱う商品に変更を加えました。

 

今の時代というのは、以前のように「ものづくりのプロ」X「何も知らない素人のお客様」の2極図式では語れませんね。発信も制作も、スマホや様々な材料素材の一般流通で、器用にご自分に何かを作ったりアイディアを持っている方がとても多い世の中です。基本要素が「職人」ではないわたし(企画・手配・実施屋です)は、そんなアイディアのあるお客様のあと一歩のお手伝いをすることにより、さらに地元・三軒茶屋の皆さんとコミュニケーションができるのではないかと考えました。

 

まず最初に取り組んだハンドメイドアクセサリーは、完成商品に「あと、ここがこうだったら欲しいのに」というご要望を受けて、自分一人でやっている融通性を活かしてセミオーダー、フルオーダー、リメイクをメインに据えました。その場ですぐに制作できるものも多く、お出かけ直前に立ち寄り「今日の洋服に合うアクセサリーを作って欲しい」という方などもいらっしゃって、「もっと自由にリクエストをお受けしていこう」と思い、お手持ちのアクセサリーのリメイクなどもとてもリーズナブルにご対応させていただいてます。だって、自分だと修理やリメイクが新品以上の価格を要求されると正直迷ってしまいますので、迷いなくリメイクできる価格設定にしています。昔のものや思い出のものをまた身近に使っていただきたいからです。

 

同じように、名刺の作成なども、ご本人のご希望を最大限お伺いしております。デザインご提案の一方通行ではなく、用途や経緯をお伺いし、表記関連のアドバイスをさせていただくことも多いです。デザインはお客様のお持ちのイメージをまずは大切に、でもきちんと最終的なバランスはこちらでご提案するという形です。打ち合わせで直接お話ししたり、印刷までの間のやりとりなどですっかり仲良くさせていただいたり、他の印刷物のご依頼を頂いたりと楽しいコミュニケーションです。その方のお仕事がスムーズに捗りますよう、表記やデザインだけでなく、コミュニケーションも営業時間外のご対応などかなり融通がきくお店のスタンスでございます。

■アドバイス・カウンセリングサロンとして

お店を1年2年と続けていくうちに、ここは自分のプライベートショウルーム・営業拠点という観点でもっと多様化していきたいと思うようになりました。アクセサリーやフランス雑貨、名刺作成という「モノ」だけではなく、自身の経験がそのまま丸ごと活かせること。

 

そこで新たなサービスとして「タロットカード占い」を2016年より開始。自身が留学していた大学はエクス・マルセイユ大学で、マルセイユはタロットカードの名産地ですのでこれはご縁としか言いようがありません。わたしは「ステラマリス・アドリアーナ」という占いネームを採用しました。三軒茶屋にはあまり占いができるサロンがないため、たくさんのメディアにご紹介いただきこれまでの2年で2000回占わせていただきました。場所柄もありますが、1回きりのお客様より、10回20回とご相談くださるリピーター様がほとんどです。苦しい気持ちを解放させたり、さらにエネルギーアップするようなカードが出るサロンとしてご紹介・口コミから、とても品のあるお客様が多いのが当店の占いの特徴です。

 

さらには、わたし自身イベントプロデュサーであり、会社代表・店舗オーナーという立場経験から、起業や独立をされる方へのスポットコンサルティングも口コミのみで展開させて頂いておりましたが、この2018年10月よりどなたでもご依頼いただけるサービスとして開始致しました。これによって、Cafe de la Poste三軒茶屋が取り扱うサービスとして4つのカテゴリーが完成しています。「何にしていこうかな」という普通の店舗展開とは異なる方式で進めてきましたが、こんな小さなお店でも「拠点」があるだけでアイディアを無限に広げていけるという確信を、今では自身を持ってお伝えすることができます。

■三軒茶屋を盛り上げていきたい

このように、自分でも何のお店かわからない状態で手探りでじっくり続けてこれたのも三軒茶屋の気さくで人なつこい皆様のおかげです。三軒茶屋は戦後の整備されていない区画がそのまま残っているため、間口の小さな店舗がたくさんあって個人オーナーさんがそれぞれ頑張っている土地。そんな三軒茶屋をもっともっと面白い街にしたい。Cafe de la Poste 三軒茶屋もおもしろコンテンツとして三軒茶屋のカラーや個性の一つになれたら最高です。

 

お客様、他の個人店の方々、行政も学校も全部交えてコミュニケーションが取れていけるような、そんなひとりになりたいと今日も明日も考えながらひとつひとつ「できること」をやらせていただいております。

これからもCafe de la Poste 三軒茶屋をどうぞよろしくお願い申し上げます。

 

 

2018年10月15日

Cafe de la Poste 三軒茶屋

店主/コミュニケーター/デザイナー maki